日本の近代は日本国内で成立したこともあり海外に出て行かなかったですが、本当にいい作品があると思うので、徐々に広がっていくと思いますし、そのための努力をしていきたいです。




作家と画商の粋な関係に魅力を感じて


お店について教えてください。

東京、渋谷区広尾の青龍堂です。創業は1885年(明治18年)です。主に物故作家の絵画を扱っています。私は4代目となりますが、絵の方では古い方だと思います。


初代は、富山から上京して、上野で書画や蒔絵を扱っていました。当時、根津嘉一郎さんたちと一緒に東京美術倶楽部を創業したメンバーの一人です。


小山さんはどちらかで修行されたのですか?

私は卒業してすぐ、銀座のフジヰ画廊さんに修行に入り、16年ほどいました。当時の社長は、美術倶楽部の社長をされていて、大きいお店でした。


家業を継ぐことを初めから考えていましたか?

そうですね。祖父である二代目の小山久が、画廊の看板を川合玉堂先生にいただいたり、字は梅原龍三郎先生に書いていただいたり、作家との信頼関係はとても面白いと思っていました。


祖父から聞いた話では、加山又造さんが金と銀の千羽鶴の立派な絵を描いたので、もらいに行って帰って数えてみたら77羽でした。祖父はその年、ちょうど喜寿で「喜寿おめでとう」ということだったのです。そのように口に出さない粋な計らいが、かっこいいと思っていましたし、面白い世界だと思いまして、やってみようと思いました。



広尾で画廊を開いた理由


修行時代で印象に残っていることは?

フジヰ画廊には良いお客様がいらして、ルノアールのとても良い作品をお客様に収めたことがありました。サザビーズの表紙になるような素晴らしい作品で、いいものを扱うという自負があった社長でした。その頃は、皆さんお互いに付き合いがあったので、私が店に入った時に、「あなたのお爺さんに色々と勉強させてもらったから、あなたもここで勉強していきなさい」と言われたことを覚えています。


広尾に店を開いたのはなぜですか?

昔は銀座にコレクターの方が来ていて、地方のお客様が夜の銀座に出る前に画廊を回ったり、週末にいらしたりしていました。今はそのような時代ではなくなったので、どうしたらお客様が来てくれるのかと考えたら、土日が開いている事と美術館の帰りだったら少しは来ていただきやすいかなと思いました。


この店は広尾にオープンして10年になりますが、すぐ近くに山種美術館があります。月曜日が休館なので、店も月曜日を休みにして、土日を開けています。お客様に美術館もご案内ができますので、良い場所だと思っています。



先人達に近づきたいという思いで描いた面白さ


今取り扱われているのは近代ですか?

明治、大正、昭和を生きた日本の作家が中心です。1900年代は、海外ものや印象派も含めてとても面白くて、作家の人となりが作品に出ていると思っています。


どのように作品を楽しんでいただきたいですか?

例えば、光琳が描いたお香を包むための「香包」というものがありまして、包んだ時に柄が表に出るように構成されています。ですので、ちょっと変わった構図なのですが、それを小林古径がそっくりそのまま模写をしています。この時代の画家はコレクターでもあるので、純粋に一歩でも先人達に近づきたいという思いで集めたものを描いていと思うのですが、そこがこの時代の画家達の魅力であり、面白さだと思います。ただ単に面白い画題として描いていたわけではないのですよね。


面白いエピソードが出てくると作品に深みが出てくるので、僕らはそれを探すことが仕事だと思っています。物を買ったらとにかく調べて、見つけたら作品のレベルが上がると思っています。それが作品を輝かせる作業です。そう思って、ブログで作品について書いたりもしています。忘れた頃にお客様から問い合わせがあることもあるので、やはり読んでいただいているのだな、と思います。


世の中には、値段が高くて素晴らしいものもありますが、高くなくても本当に素晴らしいものがあります。日本の絵の良さは余白と余韻なので、そこを上手く扱えたら面白いと思います。それを伝える努力も僕たちはしていかなければいけないと思います。



現代の住宅で楽しむ日本の美術


今は掛け軸や扇面が売れないから額にしますが、僕は逆だと思っていて、海外の方のようにポンと壁にかけてもらいたいです。大きな掛軸は掛けづらいことありますが、この富岡鉄斎は長い軸で少し表具の上下を短くしてもらいました。画面が大きいのでこれくらい短くても面白いと思いと思います。これはぜひ、床の間ではないところに掛けてほしいです。




状態の直しだけではなくて、このように作品をもっと良くするための努力も必要だと思いますので、この掛け軸のように仕入れてから直したり、今の住宅にも合うような軸に直すこともします。


美術商仲間で「銀座室礼」という雑誌を発行していまして、ここでは色々な空間に作品を置いて見せています。ただ絵が載っているだけではないので、面白いと思ってもらえると思います。取材先のことも書いてあり、読み物としても面白いので、手に取っていただきたいです。



あの場所に掛けたいと想像できるものを買う


小山さんが作品を仕入れる上で気にしていることはありますか?

私は、その人の肌や温度を感じるようなデッサンや素描は好きです。だから、その作家の名物と言われるものでも、自分がときめかないとダメです。作家の若い頃のものや思いがあるものに反応します。


また、自分でも心がけていることは、安いなと思っても買いません。あの場所に掛けたいと想像できるものは買って、掛けた後にそこを通ると、買ってよかったと思うことができます。そのようなイメージが浮かばないものは名前や金額に引っ張られているかもしれないので、後で後悔します。


家をこだわっている方は、そこに入るものを選ぶことで更に自分の感性を高めていると思います。先日、絵を一枚も持ってらっしゃらないお洒落なお宅に行きましたが、そこに絵を納めるととても喜ばれました。水墨の絵でしたが、そのお洒落な家の中にあると作品の雰囲気も変わります。このようなところにお納めすると、その作品を大事にしていただけるので、僕らも嬉しいです。



美術品は一番大切にしてくれる人の元へ行く


僕は、美術館に行って「今日一枚買って帰っていいよ」と言われて真剣に見るような感性が大事だと思います。そういう意味で、絵を買う作業は、自分の感性の中から知らない部分を開いて、こういうものも面白いのではないかと試していく作業です。それを持っているうちに誰かから「それいいね」と言ってもらえると、それが証明されるという商売だと思っています。


先輩が、「絵や美術品も生き物だから、一番大切にしてくれそうなところや一番欲しいと思ってくれる人のところに行く」と言っていました。確かにそうだと思うような経験を僕もしたことがあります。



日本の近代絵画の未来


今後、お店をどのように展開していこうと思われていますか。

明治、大正、昭和のものが買いたかったら、あそこは間違いないと言われるような店として知られるような仕事をしていきたいと思います。それは、どれだけいいものを残していけるかによると思いますし、自然とそういうものになっていくと思っています。最終的には、海外の方にも良さを分かってもらいたいです。


浮世絵や若冲などの江戸絵画は世界で認知されていて、どうしてもインパクトの強いものが目立ちますが、日本の良さは淡くボヤっとしていて、滲みや余白にあるので、そこを海外でも理解してもらいたいです。和食が世界遺産なったことは、旨味という漠然としたものを分かってもらえたということなので、それと同じだと思います。


日本の近代は日本国内で成立したこともあり海外に出て行かなかったですが、本当にいい作品があると思うので、徐々に広がっていくと思いますし、そのための努力をしていきたいです。




本日はありがとうございました。